「おーい でてこーい」(星新一)

描かれている愚行を、そのまま実践している

「おーい でてこーい」(星新一)
(「日本文学100年の名作第5巻」)

 新潮文庫

台風による土砂崩れで流された
小さな社。
その跡地に出現した
直径約1mの不思議な「穴」は、
測定不能なほど底が深かった。
崩れた社の再建と引き替えに
その「穴」を買い取った利権屋は、
「穴」を
廃棄物処分場にしてしまう。
その後…。

私は星新一を軽く見ていました。
反省しています。ごめんなさい。
中高生の頃、いろいろな文庫本を
読みあさっていたのですが、
星新一の位置付けが
私の中では明確ではなかったのです。
「文学」でもなさそうだったし、
「SF」なら、当時は
眉村卓光瀬龍の方が
NHKのドラマになっていて
身近だったし。

またもや日本文学100年の名作です。
第5巻に収められている
本作品を読んで驚きました。
こんな鋭い風刺の効いた
ショートショートを書いていたのかと。

ショートショートは
結末の数行が命ですので、
詳しく書くわけにはいきません。
ぜひ読んで下さい。
一言で言うならば、
私たちが捨てたものはいつか私たちに
降りかかってくるということでしょう。

人々は「穴」に
いろいろなものを投げ込みます。
外務省や防衛庁(原文)は
不要になった機密書類を、
大学は実験で使用した動物の死骸を、
女の子は古い日記帳を、
犯罪者は証拠物件を…。
でも、最も重大で厄介なのは、
一番最初に電力会社が投げ捨てた
「原子炉のカス」でしょう。

「穴は都会の住民たちに、
 安心感を与えた。
 つぎつぎと
 生産することばかりに熱心で、
 あとしまつに頭を使うのは、
 だれもがいやがっていたのだ。」

小さな村に出現した「穴」は、
大きな都会の「あとしまつ」のために
使われていったのです。
でも穴は、
すべてをなかったことにしてくれる
存在ではありませんでした。
やがてそれらが
空から降ってくることを暗示して、
作品は終わります。

私たちの国は、結局この作品で
描かれている愚行を、そのまま
実践しているのかも知れません。
放射能を「穴」に捨てたつもりになって
考えないようにしている。
でもそれは消えて
なくなったわけではないのです。
時間をおいてそれは不意に姿を現す。
フクシマの放射能汚染は、
まさにこうした
「あとしまつに頭を使」わなかった
人たちの引き起こした災害に
思えてなりません。

本作品が書かれたのは1958年。
高度経済成長期の当時では、
笑い話の一つに
過ぎなかったのでしょうが、
60年が過ぎた現在では、
超一級のブラックユーモアと
なってしまいました。

(2018.12.29)

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